Sion
那由汰の瞳は、真っ直ぐ希愛を映す。
「これは…あんたの曲。…名前教えて?」
那由汰はゆっくりと希愛に近寄る。
鍵盤を愛おしそうに撫でた指で、希愛の頬を触る。
「俺は奏 那由汰。君は…?」
どうしてこう言う時に声がでないんだろうと希愛はもどかしくなる。
出そうと思って喉に力をいれても、その口から言葉を紡ぐことができない。
声を出すことも、手話をすることも、今の希愛にはできなかった。
那由汰の言葉に答えない希愛を見て、那由汰は悲しそうな表情を向ける。
「言いたく…ない?」
それは違うと希愛は首を横に振った。
言いたいのに言えない。
自分の口から紡ぎたいのにそれができない。
自分を責めたくなる。
声を閉ざしてしまった自分自身を。
那由汰は希愛をその瞳に映す。
「もしかして…声、出せない?」
希愛はゆっくりと頷いた。
すると、那由汰は希愛の頬から指を離す。