Sion




希愛は分からないながらも、今の気持ちを手で綴った。




『好き…か分からないの。彼は…とても優しくて温かい。
一緒にいると…昔のことを忘れてしまいそうになるの』




希愛の言葉に律花は眉をひそめる。
律花は希愛の両肩を掴んだ。




「…忘れちゃダメなの?希愛はずっと苦しんで…泣いて…いっぱい失った。
なのに…まだ幸せになっちゃいけないの?」




律花の言葉に希愛は何も言えなくなる。
言葉にする代わりに首を縦に振った。




忘れてはいけない。
そう希愛は心に誓った。




苦しんで泣いても戻らない。
声が代償じゃあ許してもらえない。




『彼』はもう此処にはいない。
とても大切だった。大事にしたかった。




なのに傷つけてしまった。
壊してしまった。跡形もないくらいに。




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