Sion




希愛は思い出しそうになった。
世界が壊れそうになったあの時を。
零れそうな涙を堪えながら、震える指を動かした。




『私に…幸せになる権利なんてないの。もう…『彼』はいないのだから…』




「『彼』は…希愛に不幸になって欲しくないと思ってるはず。なのに…自分で不幸にしてどうするの?
幸せになることが…償いにはならないの?」




それ以上話したくなくて希愛は首をブンブンと横に振った。
まるでその話を拒むかのように。




そんな希愛に律花は優しく触れた。
少し潤んだ瞳が希愛を見つめる。




「…これだけ聞いて。あいつは…きっと希愛を包んでくれるよ。認めなくないけどね。絶対…拒んじゃダメ。」




そう言うと律花は手を離す。
何事もなかったかのように、いつもの笑みを見せる。




「希愛、お昼食べよ。学食行こっか」




そんな律花に希愛は申し訳なくなった。
『ごめん』と心の中で謝る。




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