Sion
希愛は『ありがとう』と湖季に礼を言い、カバンを持ち、特別棟に向かった。
そんな希愛の後ろ姿を見て、湖季はクスリと微笑んだ。
「…盗られたみたいで悔しい?」
と、律花に尋ねる。
『別に』と言う律花の声は少し震えていた。
そんな律花の肩を湖季は抱く。
「じゃあ、俺とこの後出かけよう」
笑みを浮かべ、律花の目を見る。
律花は湖季の目をじっと見る。
そして、力が抜けたように肩を竦めた。
「…奢りならいいよ」
いつもと違う、優しい笑みに湖季はニッと笑う。
「じゃあ、このまま付き合っちゃおう」
「…馬鹿っ!」
律花は湖季の頭をコツンと殴る。
だが、その顔は何処か嬉しそうだった。