Sion
特別棟の中を歩き進めるとメロディーの音が次第に大きく感じる。
音楽室と書かれたプレートを見、希愛はひっそりと扉のガラスから様子を伺った。
そこには那由汰の姿があった。
ピアノを愛おしそうに楽しそうに笑みを浮かべて弾いている。
その姿にとくんと胸が鳴る。
入学式の日に見た時とはどこか違う。
その曲調もまるで誰か愛を伝えているかのようで…
『愛している』『好きだよ』と甘い言葉をかけられているような気分になった。
顔を出そうか迷っていると、那由汰のピアノが止まる。
ふぅっと息を吐き、真っ直ぐ扉の方を向く。
その瞳と視線がぶつかった。
那由汰はにっこりと微笑み、手招きをする。
希愛はおどおどと音楽室のなかには入り、近づく。
そんな希愛に、
「もっと近くにおいで?」
と甘く囁くように言う。