Sion
その声に何故か逆らえなかった。
また吸い寄せられるように那由汰に近づいた。
すると、那由汰は希愛の手を腕をぐっと掴む。
次の瞬間、希愛の体は那由汰の体に寄せられていた。
恥ずかしくなって希愛は身をよじる。
頬を赤らめる希愛の姿に那由汰はクスリと微笑む。
「…恥ずかしい?でも…拒まないで」
と、耳元で囁かれる。
予想できない那由汰の行動に毎回胸の鼓動がドキドキと速くなる。
ピアノを弾いてくれたときも、そのあとも、そして今も…
『…狡いです』
「なんで?ほら…俺だってドキドキしてる」
と、那由汰は自分の胸に希愛の手を置かせる。
胸の鼓動は希愛と同じ速度でドキドキ鳴っていた。
「希愛、俺のこと…もっと知りたくない?」
那由汰は希愛に尋ねるが、希愛は何も言えずに戸惑っていた。
そんな希愛に那由汰は続ける。
「俺は…希愛のこと、もっと知りたい」
狡いと希愛は思った。
それと同時に、那由汰との距離が危険だと感じる。