Sion




その声に何故か逆らえなかった。
また吸い寄せられるように那由汰に近づいた。




すると、那由汰は希愛の手を腕をぐっと掴む。
次の瞬間、希愛の体は那由汰の体に寄せられていた。




恥ずかしくなって希愛は身をよじる。
頬を赤らめる希愛の姿に那由汰はクスリと微笑む。




「…恥ずかしい?でも…拒まないで」




と、耳元で囁かれる。




予想できない那由汰の行動に毎回胸の鼓動がドキドキと速くなる。
ピアノを弾いてくれたときも、そのあとも、そして今も…




『…狡いです』




「なんで?ほら…俺だってドキドキしてる」




と、那由汰は自分の胸に希愛の手を置かせる。
胸の鼓動は希愛と同じ速度でドキドキ鳴っていた。




「希愛、俺のこと…もっと知りたくない?」




那由汰は希愛に尋ねるが、希愛は何も言えずに戸惑っていた。
そんな希愛に那由汰は続ける。




「俺は…希愛のこと、もっと知りたい」




狡いと希愛は思った。
それと同時に、那由汰との距離が危険だと感じる。




< 56 / 303 >

この作品をシェア

pagetop