Sion




離れたくて、身をよじる。
すると、那由汰は片手でふわっと希愛の身体を抱き寄せる。




「…逃げないで?」




『や…なんです。私に近づかないで…ください』




「それは…希愛の本心?」




那由汰の瞳が希愛を捕らえる。
見透かさそうで希愛は目をそらす。




本心だと希愛は感じている。
那由汰の近くは温かすぎる。




自分がいていい場所ではない。
希愛は早くここから離れたかった。




だが、那由汰はそれを許してくれない。




「希愛、俺に希愛の全部を教えて?」




その甘い言葉に逆らえられるだろうか。
知って欲しくない。知られたくない。
それなのに…打ち明けてしまいたいような気持ちがある。




希愛の内に秘めた過去は誰にも知られてはいけない。
知られたら…どうなる?
那由汰の接し方が変わるのではないか?という不安がどこかあった。





< 57 / 303 >

この作品をシェア

pagetop