Sion
そう考えると胸が痛い。
希愛はぶんぶんと首を横に振った。
『話したく…ないです…。お願い…これ以上、心を乱さないで』
一緒にいると居心地の良さを感じてしまう。
もっと傍にいたいと願ってしまう。
希愛はそれが嫌なのだ。
幸せになることを人一倍恐れている。
それは…『彼』への懺悔でもある。
「…どうして?どうして…幸せになっちゃいけないの?」
その言葉に希愛は目を丸める。
那由汰は希愛の心を見透かしたように尋ねる。
「希愛の笑顔…俺は好きだよ」
那由汰の笑顔が希愛には眩しかった。
何故かつつぅと涙が頬に伝う。
その涙を那由汰は長い指で優しく拭った。
「希愛、教えて。俺は…傍にいるよ」
ぎゅっと那由汰は希愛の手を握った。
どうしてだろう…那由汰の手の温もりが心にじんわりと広がる。
不思議な人だと思っていた。
だが、とても優しく温かい人
那由汰だったら話してもいいと思った。
ずっと希愛の記憶に残っている、幼き恋心と忘れることのできない傷跡