Sion
那由汰が足を止めたのは、誰もいない中庭だった。
二人が初めて出会った場所
そこに人がいる気配はなく、グランドからはたくさんの声が響いていた。
『どうしたんですか…?』
おずおずと希愛は尋ねる。
那由汰は希愛に背を向け、新緑の葉を付けた桜の木を眺めていた。
優しい手つきで葉に触れる。
「う~ん…二人っきりになりたかった…っていう理由じゃ嫌?」
その言葉に希愛は笑みを浮かべた。
那由汰はどこかへ希愛を連れていくとき、必ずそう言う。
今までもそうだった。
『いつも…二人っきりになっているじゃないですか』
『それだけじゃ足りないって言ったら?』
と、那由汰は振り返り、意味ありげに笑う。
その笑みが悪戯でどこか大人っぽく見えた。
胸がドキドキする。
胸に手を置いているが、その手にまで伝わる。
このドキドキはどこから来たんだろう。
どうしてこんなにも胸が鼓動を刻むんだろう。