Sion




それがもし、那由汰のおかげだとしたら…
那由汰に関わってから、希愛は明るくなってきたということだ。




那由汰の存在が希愛の陰、悲しみを癒してくれる。
苦しかったはずの優しさが実は希愛の心を包んでくれていたのだ。




希愛が気付かなかっただけで、那由汰の存在は『大切』だった。
爽のことを乗り越えるきっかけのようなものだったのだ。




最近、爽の夢をよく見る。
だけど、不思議と悲しくないのだ。
それは…那由汰のお陰だったのかもしれない。




那由汰の存在はかけがいのないものに近づいていっている。
希愛自身が思っていたよりずっと…。




『律花…私…彼といると温かい気持ちになるの…』




律花は一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐにふっと笑みを浮かべる。




「それは…ほかの人でもそうなるの?」




希愛はブンブンと首を横に振った。
同じような優しさをくれる湖季には感じない。
ずっと支えてくれた律花でも…この胸の温かさを感じることはなかった。




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