Sion
ん?と律花は首をかしげて振り返る。
塞がっていない右手で希愛は言葉を伝える。
『それって…奏くんのこと…?』
「気づいてたの?」
希愛は首を横に振る。
まだはっきりとは分からない。
胸の奥に宿る、小さな温かさに。
だが、その温かさが胸にあると落ち着く。
だけど、ざわついて不安で仕方がない。
胸がぎゅっと締め付けられ、切なくなる。
この気持ちが何なのかは分からない。
だけど…この気持ちは律花や湖季には感じないことを、希愛は感じていた。
『律花…この気持ち…どうやったら分かる?今はすごく…もどかしいの』
その言葉に律花は優しく微笑む。
「言葉に出してみたら…分かるのにね。でも…あいつの前で心の中で出してみて、その思い。そしたら…分かるよ」
『律花…私…』
「考えすぎないで。その想いは…素直であるべきなんだから」
そう言うと、律花は振り返らずに希愛から離れていく。
希愛の視線を背中に受けながら、律花ははぁーっとため息をついた。