Sion
高校に入って…那由汰に出会い、世界も変わっただろう。
那由汰の存在は…希愛にとって『大切で特別』になってきたのだと近くで見ていて気づいた。
それなのに、また居なくなったら…
希愛の心はどうなってしまうのだろう。
そんなこと、考えたくないし、現実になって欲しくなかった。
それが決まるのは那由汰と希愛次第
分かってはいても、お節介せずには居られない。
「あの子は…臆病なの。過去がそうしてることは分かってる。でも…あんたと出会って…少しずつ変わっていってるんだよ」
そばで見ていて分かる。
希愛の笑顔が日に日に増えていっていることに。
きっと、律花にはできなかっただろう。
どんなにそばにいても、
どんなに励ましても、
律花では希愛の心をここまで癒すことはできなかっただろう。
律花は睨むことなく、那由汰を真っ直ぐ見つめる。
「希愛のこと、好き?」
那由汰の唇は動かない。
律花ははぁーっとため息をついた。
もういいやと諦めかけ、身を翻したとき―――
「…好き…だよ」
小さなつぶやきに似た声が聞こえた気がした。
振り返り、那由汰を見る。
今度は那由汰は律花に向かってハッキリと、
「好きだよ」
と唇を動かした。