Sion
その男の子は少し気だるそうに二人に目を移す。
「何?」
第一声。
耳に響いたその声はとても綺麗だった。
ノイズなんてない、スッと通る声
特別高くも低くもない声
だけど、何故か耳によく残る声だった。
喋れない希愛に変わって、話し出す。
「ちょっと桜を見に来て…。えっと…邪魔…しちゃいました?」
不安そうに律花は男の子を見る。
男の子はふわぁと大きくあくびをする。
その姿は猫を連想させる、警戒心のない姿だった。
「別に。どうせ、もう時間だし」
そう言って、男の子は希愛と律花の横を通り過ぎる。
だが、希愛の視線に気づき、足を止め、振り返る。
「…何?」
希愛はブンブンと首を横に振った。
すると、男の子はふっと笑みを漏らした。
「…変なの」
その笑顔に一瞬、目を奪われてしまった。
その容姿によく似合う、目に残る笑顔だった。
これが、奏 那由汰(かなで なゆた)という男の子との出会いだった――――。