Sion
律花は眉をひそめた。
「じゃあ…なんではっきり言わないの?」
那由汰を今まで見てきて思った。
那由汰は自分の考えや思いをハッキリと伝える性格なのだと。
なのに、希愛に対する想いはあやふやではっきりしていない。
那由汰は視線を下にずらした。
「…はっきり言えない。希愛のこと、大切で好き。だけど…今は言えないんだ」
「…どういうこと?」
律花の眉間にしわが寄る。
鏡を見たら、もの凄い顔をしていると思う。
「…言えないこと?」
「いや…別に。ただ…時間かかるだけ」
ちらりと那由汰は時計に目を移す。
律花は『分かった』と肩をすくめた。
「じゃあ、これが終わったあと話して。話すまで帰さないから」
ふふっと企むような笑みを見せる。
那由汰は『分かった』と小さく頷いた。
「じゃ、音楽室きて。あそこなら誰もこない」
「了解。じゃあ、また後で」
ひらひらと手を振り、律花は自分のクラスへと戻っていった。
那由汰ははぁーっとため息をつき、腰に手を置いた。
「…『特別』、か」
その言葉をつぶやいた那由汰の顔はどこか憂いでいた―――。