Sion




メロディーが響く廊下に声のような音が微かに聞こえる。
その音は二つあって、ひとつは那由汰の声だろう。




そして、もう一つは…




「…あなたって勝手な人ね」




どうしてここにいるか分からなかった。
さっきまで一緒にいて…用事があるって…




どうして…ここにいるの?
どうして…那由汰と一緒にいるんだろう。
どうして…嘘をついたんだろう。




希愛はすっと物陰に隠れた。
本当は二人が何をしているのか、知りたくない。
だけど…好奇心が希愛の心を動かした。




二人は音楽室にいた。
那由汰は椅子に座って、鍵盤に手を置いている。




そんな那由汰を睨むように見下ろす、律花の姿。




「勝手で…でも、臆病なのね。だとしても、間違ってる」




「…それでいいよ。俺は…そうすることしかできない」




その言葉に律花は眉をひそめる。
『最低ね』と侮蔑の言葉を呟いて。




「傷つくのはあなたじゃない、あの子なの。あの子のこと、想っているなら…」




「あんたは…希愛の何?お節介することが…希愛の為になると思ってるの?」




那由汰には珍しく、冷たい言葉を放つ。
その言葉に律花は負けたのか、黙ってしまう。




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