メインクーンはじゃがいもですか?
部屋の中へ入ると、そこには野兎と修が葵を囲んで何やら話をしている最中だった。
葵はたじたじモード全開でどうしたらいいのかの対応に困っているように見えた。
目の前に、見た感じからして悪そうな男が二人並んでいるわけだから、一般人の葵にしてみたりゃそれは末恐ろしい絵に映ったことだろう。とにかくさっさとここを後にしたい気持ちでいっぱいに違いない。
「おい、帰るぞ」
霧吹は葵にそう言い捨てた。
その声に反応した葵は、起き上がりこぼしのようにゆらゆらと揺れていた体を唐突に起き上がらせ、霧吹と次郎の方に小走りで走って行く。
『助かった!』別に何をされていたわけでもないけれど、この場から逃げ出したい葵は咄嗟に小さく声に出していた。
野兎のおやっさんと修が葵の言った一言に、ぷふっと顔を見合わせて笑ったことなど葵は気付く訳もなく、呼ばれてすぐに立ち上がるそんな動作は、まるで「来い!」をされた犬のようにも見えた。
「それでは葵さん、その話はまた後日ということで」
修が席を立ち、葵に声をかけたが、葵はそんな修を見て、頭を小さく下げただけだった。
霧吹と次郎は何の話があったのか検討もつかない。
修と野兎将修の表情を見れば、聞いたところで何も言わないし、見返り無しでは教えないというのは、一目瞭然。ここで何かしら聞くのもバカらしいと思った二人は、何も言わず、事務所を後にした。
帰りのリムジンの中で葵は霧吹の顔を見ることなく、自分のつま先をじーっと見つめていた。
手渡したワインも飲むことなく手ににぎられ、時間が経ってその味が変わっていくことにすら気付いていない。
ワインは、「さっさと飲めやこら!」と言っているが、当の葵にはそんなワインの気持ちは通じず、修に聞いた話を考えてまとめることに精一杯というかんじだった。
それを知ってか知らずか、三歩歩けばすぐに忘れる霧吹の出来のいい脳みそは、葵が何に悩んでいるのかなんて気にするわけもなく、酒の事で頭が一杯になっていた。
残念な葵は、修にされた話を誰にするともなく、自分の心に閉じ込めて闇に葬りさるしか方法がなかった。
それをバックモニターで確認する次郎は、溜息混じりに首を横に振るのであった。