メインクーンはじゃがいもですか?

「あー、みなさまおはようごじゃいまあっすぅぅっふ」

 震える尻つぼみの声に学生は静まり返る。小さく話すその声をちゃんと聞こうとして、10センチ程みんな前に顔を出す。

 葵もまた例外じゃない。聞こえるように左耳にかかる髪の毛を耳にかけ、耳を傾けた。

「えーっとそのそのその、今日は私のじょじょじょじょ助手をご紹介しようかと……うにゃうにゃうにゃ」

 やはり小さい声で最後の方が聞こえない。

「霧吹先生ですしゅにゃいにゃにゃい……」

 居ても立ってもいられなくなり、そわそわとしながらもじもじし、そそくさと壇上を霧吹に譲った。

 あれ? あいつあのときのじゃね? なんであいついんの? おかしくね? まじかー。またあれやられんのか。しんどいわ。と教室内がざわざわし始めた。

 あの講義の時にいた学生が何人かいる。霧吹に気づきにわかにざわめき立つ教室内。教室内の空気と同様、葵の心もまた穏やかじゃなかった。

 やめて、やめて、やめて。ほんとやめて。この前みたいなのはほんとダメ。と心で唱える。

 後ろの女子が、「なんかちょっとかっこいいよね」「だよねー。大人ってかんじ。てかあの怖そうなところに惹かれるー」「彼女いるのかな?」「てか、いつからいるの?」

 などと、外見に騙されて淡い期待を込めてウキウキしている。そんな学生一同を鼻で笑う一番前に陣取った出来る(と勘違いしている)学生が余計な一言を挟んできた。

< 111 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop