メインクーンはじゃがいもですか?
みんなの視線が注がれる中、霧吹の内ポケの電話が振動した。霧吹は教室内を見渡したが、誰だか検討はつかなかった。
教室の後ろのドアで待機していた次郎に目をやると、次郎は小さく頷いた。それを見て霧吹は、葵に向かいにたりと笑うと、先ほどと同じように手を上げて、何も言わずに教室を後にした。
「誰だか分かったか?」
「あの筋肉バカだと」
「ああ、あいつか? 三郎が言ってた奴と随分と違うんじゃねぇか」
「そこが気になるんですが、俺が観察してたらあいつだけが若のせっかくのご講義の間に携帯を操作し、その直後に若の電話が鳴ったので、あいいつじゃないかと思いまして」
「俺の五千万はあいつか。まずはあいつの電話を手に入れてーところだな」
「あいつはこの前も葵さんに声をかけてきましたし、一つ二つ離れて座るところも同じでした。これは少しおかしいかと思います」
「ああ、そう言われっと確かにこいつっぽいわな」
獲物にロックオンした霧吹は、どうやってこいつをあぶり出すかを考えていた。証拠を掴まなきゃ意味がない。
次郎が教室の後ろに視線を送り学生の行動をいちいちチェックしていた。ありがたかったのは人数が少なかったことだ。そのおかげで絞り出すには丁度良い機会になった。
大学の門の前に停車中の一台の白いリムジンの中には修がいる。クラシックをかけながら優雅にシャンパンを傾けていた。
霧吹のリムジンはいつも拳のきいた演歌が流れている。たまに線香の香りも漂っていることがある。
もちろん葵を待ち構えているのだが、それだけじゃなかった。
なんとか霧吹の弱みを掴もうと静かに躍起になる修は、残念なことに、まことに残念なことにやはり霧吹と同類項のにおいがぷんぷんしていた。
いつまでも昔のことをねちっこく言いまくる修は、本当にそのお顔がもったいない。
神様はなんと優しいお方か。
こんな性格で顔もまずかったら、手を差し伸べる人すらいないだろう。しかし修は顔だけはすこぶるいい。性格を丸っと無視して寄ってくる女もわんさかいる。そのルックスから女ばかりじゃなく二丁目の組合の方々までもが言い寄ってくるしまつだ。
修は今現在、それからこれから霧吹にしようとしている自分の無礼など気にすることもなく、ひたすらに昔のことを言い続け、ねちっこく執着し続けていた。
そんな修をいなし続ける霧吹は、実は大人な男なのかもしれない。