メインクーンはじゃがいもですか?
コオロギ
【コオロギ】
うわ!
東門を出たところで葵は走っていた足を急速に止めた。瞬間、土埃が舞った。
目を左右に動かし、そこにいる人たちを見たくないのに見なければならない状態に陥った。
右には黒塗りリムジンに霧吹に次郎、左には白塗りのリムジンに修に運転手、4人の強面な男達がなにやら嵐の前の静けさでこっちを睨んでいた。
とってもただならぬ雰囲気しか感じない葵は、霧吹、次郎、修、運転手と一通り目を合わせると、見知った霧吹の元へと歩み寄った。
「よし、帰るか」
勝ち誇った顔を修に向ける霧吹に、うんうんと頷く次郎。
「葵さん、もう帰られるんですよね? それでしたら、私と食事に付き合ってはもらえませんか?」
嘘っぽくはにかむ修はやはりかっこいい。と、思う葵だったがはたしてなんのために食事に誘われているのかの検討もつかなかった。
霧吹とそっくりなのに性格は違うんだ。たぶん。優しい人なんだ。きっと。さっきのこともあったから元気づけようとしてくれてるのかも。きっとそうだ。
人の心の奥深くを見ることのできない葵にその本心は読むことは出来ない。
マリアカラスがその己の男を見る目の低さに悪い男に惹かれて苦労したという話は有名だが、放っておいたら葵もそうなりかねない。
上手にだけ言えば、人が良くて純粋で素直で汚れを知らない人。
「葵ちゃん!」
そこへ聞き覚えのあるしっかりした声が聞こえ、振り向くとそこにはコオロギが息を切らして立っていた。葵の後を追って来たらしい。
「葵ちゃんこの人たちと知り合い? って、先生たちと、知り合いだったの?」
訝しげさておき、コオロギが霧吹と修の顔を交互に見る。
葵はどうしたらいいものか、助けを求め霧吹の顔を見たけれど、霧吹は薄ら笑いを浮かべてコオロギを凝視しているだけだった。