メインクーンはじゃがいもですか?
「しかも、え? 双子? まじ? 先生が二人? なんで」
「なんだそれ、アホが。俺とこれが双子なわけあるかよ。ただ少しばかり似てるだけだろ」
霧吹が言い切った。そして完全に否定した。似ているのはまだしも人に言われるのだけは勘弁ならなかった。
「って何? 将権いつから先生になったわけ? まじでうけるんだけど」
クスクスと笑う修にイラッとくる霧吹。
「昔から先生を困らせる係みたいだった将権がせんせ? それが何、いつから先生になったの? ははは。嘘でしょ? ついこの前まで番号で呼ばれてたと思ったらいきなり『先生』冠? 何がどうなってんの? ちょっと何、面白いことしてくれてんじゃん。俺もこの話に混ぜてよ」
修は面白いおもちゃを見つけた猫のように黒目を大きくして霧吹とコオロギを交互に見た。そのおケツからはふわっふわの尻尾が生えていて左右にぶんぶん振りまくっているようにすら見える。
「てかさっきから何言ってんのこのおっさんたち」
コオロギが葵に向かって、彼らのことで言ってはいけない一言を言った。
とたん、霧吹と修の顔から笑顔が消えた。
空には黒い雲がかかりはじめ、ゴロゴロと雷様の華麗なる演奏が聞こえてくる。
さながら、華麗なる大円舞曲だ。
「「おいこら、くそガキが。今なんつったや?」」
ドス黒いハモりが耳の奥底に到達し、コオロギは身の危険を感じた。
「え?」
葵に助けを求めようにも、葵はいつの間にか次郎の後ろに隠れていた。
葵ちゃん……そんな。
裏切られたと勝手に思い込む惨めなコオロギは手を葵に差しのばしたがその手が握り帰されることはなかった。
そんな次郎は葵を背中に隠し、誰かに電話をしていた。
1970年代に流行った歌がどこからともなく聞こえてきた。それはコオロギのポケットからだった。
「あ」
コオロギはしまったとばかりにポケットに手を伸ばし、電話の音を消そうとして葵を見た。
葵はいまだ次郎の後ろに隠れて、こっそりとこっちを覗いていた。表情は読み取れないがその手に携帯は無い。