メインクーンはじゃがいもですか?
「ほらこれ。これがなんだか分かる?」
生意気なクソガキを睨み、修は電話を覗き込んだが、やや見えにくいのか、携帯を少し遠くにやって画面を見た。
「葵ちゃんの居場所はこれで分かるようになっている」
優越感に浸るコオロギは俺はすごいんだぞ感を全面的に押し出した。
「お前これってまさかのあれか。さっきの電話ってあの子からのか?」
「そうだよ、葵ちゃんの電話に仕掛けてあるんだよ。どこで何をしてるのか、すぐに分かる。でも残念なことに電話は葵ちゃんの手にはなくてほかのだれか、さっきの男の手の中にあるみたいだけど。悔しいよね。それに家に仕込んだカメラだって外されたみたいだし。酷いことするよねほんと。どう、だからさ、あいつから葵ちゃんを取り返すのに俺と手を組まない?」
体育会系らしからぬどっぷりと黒い顔になったコオロギはやはりバカだ。
まだ敵か味方かも分からない修相手に自分から己の仕業を暴露した。そして、修は葵のことなど全く狙ってなどいないってことに気づいていない。彼の目的は霧吹のみだ。
修はこの脳みそまで筋肉バカをおもしろおかしく眺めると、
「ふーん、いいよ。じゃ、そんなかんじで手を組もうか」
白い歯を見せて素敵に微笑む。
コオロギは修を丸め込んだと勘違いし、自ら手を差し出した。
握手だ。
「調子んのんなよ、虫野郎」
コオロギの目を鋭く睨むと、
「バカは扱いやすくていいなぁ」
と、戸惑うコオロギに追い打ちをかけた。コオロギの心の中は『虫』と呼ばれたことにとても傷ついていた。その昔、そのあだ名で軽くいじめられたことがある。そんなオールディーなメモリーをサドゥンリーにおもいだしたのだろう。
「そう思わねーか?」
今度は優しくコオロギの目の奥を見つめる。
「お、おお、そうっすね」
やはり子供だ。そして空っぽだ。しっかり誘導されている。
修の後ろで突っ立っていた運転手の口元が緩んだことを、コオロギは知らなかった。