メインクーンはじゃがいもですか?
ぐーーーーーきゅるるるるるるうぃーーーーっしゅきゅっ
異音は無駄に長い車の中全体に細く長く響き渡った。
葵は咄嗟にお腹を抑え、イチゴのように顔を赤くさせて下を向いた。
霧吹はそんな葵を見、「なんだ、腹減ったのか?」と何事もなかったかのように聞く。
頷く葵は恥ずかしくてまともに霧吹の顔が見られなかった。まだうら若い乙女だ。腹の虫が音を奏でたらそれはそれはこっぱずかしく思っても不思議じゃない。
「次郎、小町へ行け」
車内に置かれた電話で運転席に命令し、車は目的地を『家』から『小町』へ変えた。
「こ、小町ってなんですか?」
お腹を抑えたまま聞く葵に、「メシ屋」と、当たり前のことを言う。
どんなご飯屋さんなのかっていうのが聞きたかったのだが本人はそんなことはお構いなしだ。自分が知っていることは相手ももちろん知っていると思っている。
「ほら、飲め」
空きっ腹にスパークリングを差し出す霧吹は、腹が減ったならひとまずは飲んどけと、葵の手に酒を握らせた。
きっと彼は空きっ腹に酒を入れてもなんてことない強靱な胃袋の持ち主なのだろうが、葵はそうはいかなかった。
差し出されたグラスに霧吹が強引にグラスをぶつける。
お得意の一人乾杯だ。
乾杯されたら全部飲まなきゃいけないといった韓国や中国の習慣のように、霧吹は一気に飲み干すと葵にもそれを求めた。
しかたなく手渡されたスパークリングに一口だけ口をつけた。
「お前はしきたりってーのを分かってねーなタコ助が」
「タコって今言われるとうっすら傷つきます」
「乾杯されたら一気に飲む。これが基本中の基本だるぉ。飲め」
「そんな基本なんて聞いたことないですよ。それに、私お酒はあんまり」
「いいからやれってんだよ、めんどくせーな」
「また、二言目にはめんどくさいって言う。それも傷つきます」
今では一気飲みの強制はいけないことだって巷では言われているんですけれども? と心で思うも口には出さ。さしてそんな常識がこの男に通じるわけもない。