メインクーンはじゃがいもですか?
えーい! こうなりゃ飲んでやる! いろいろありすぎて飲まなきゃやってられん!
葵はグラスの中身をくいっと一気に飲み干した。喉に落ちる熱い液体、喉元を流れるお高い万円の泡酒。鼻に抜ける葉の香り。
まだ誰にも話せないでいる修に言われたことといい、よく分からないけどコオロギがやたらと出現することいい、見つからない変な奴のことといい、はね飛ばして逃げ去った犯人のことといい、確かに飲まなきゃやってられなかった。
既に葵以外はみんな犯人がコオロギだということに気付いているのだが、おめでたい葵は『まさかクラスメイトのコオロギ君がそんなことするわけない』というなんともクラスメイト思いな発想を繰り広げていた。
「おかわり」
グラスを差し出す葵に、いいね~とばかりになみなみと注ぐ。
二人で乾杯をすると、どちらからともなく一気に飲み干すしお互いにニタリと笑み、霧吹がまた酒を注ぐ。
運転席から後ろの二人を注意深く伺っていた次郎は不安で心が一杯だった。
さすがに空きっ腹に酒は回るのが早い。葵はルンルン気分になり、雪だるま式にピッチは進み、禁断のオープンな性格に変わりそうだった。
霧吹は霧吹で、人のことなど気にせずに自分のペースで淡々と飲み続けていた。
「で、霧吹さん!」
人指し指で霧吹をびしっと指す葵にちっと舌うちをし、
「てめー殺すぞ、指さすなや」
人指し指をペシンと払いのける。
「で、霧吹さん!」
人を紹介するやり方で手のひらを霧吹の前に出し、同じことを言う。
「霧吹さんには彼女はいないんですか?」
葵は酒の力を最大限に借りることにした。素面では言えなくても酒の力が魔法をとなる。
「あ? なんだそれは。つい最近出て来たばっかでそんなもんがいるかよ」
「出て来た?」
「そうだよ、出て来たばっかだからな」
「……あー……お帰りなさい」
「……」
頭を下げる葵のことを白目をむいて睨む霧吹は、ブッ飛ばしたくなる衝動を少しだけぐっと抑えた。