メインクーンはじゃがいもですか?
遅れたとばかりに小走りに、何食わぬ顔をして着いて行く修は、これから何が起きるのかを楽しみにしている風だった。
座敷では葵が酒をよこせ、飲ませろ、グラスに入れろとコップを次郎に突きだして、ぐだんぐだんにくだを巻いている。
「あぁ、葵ちゃんて酒入るとあんなかんじなんだ。残念だね」
修はぜんぜん残念じゃない顔を惜しげもなく披露した。
酒癖の悪い女をことごとく嫌う修は、霧吹のお気に入りである(はずの)葵にちょっかいをだし、霧吹が噛みついてくるのを楽しむというミッションに大いに力を注ぐつもりでいたが、気持ちが変わった。
「将権、僕気が変わっっちゃったな」
「あ? 毎度毎度めんどくせーな。おまえの気持ちの変化なんか知ったこっちゃねーわな」
「でさ、考えたんだけどね、葵ちゃんと一緒になんなよ。そうしたら今までのことは水に流すし、この島の争い事にも終止符を打つ。高校の時のあの事件はチャラにしてやるよ」
この二人が一緒になった場合、今後の展開は予想もつかないことになると修の今までの経験から導き出した結論がそう物語っていた。
「なんだよあの事件て。結局よく分からねーへっぽこ男に取られたんだから、俺の責任はねーんだよほんとはな。お前の女々しい勘違いだ。で、その話は却下だな」
「俺が一席設けてうやろうか?」
修は霧吹の言ったことは完全無視して話を進めだした。
「お前は今の俺の話聞いてたか?」
「ひとまずだ。葵ちゃんの見えない追っかけの犯人は俺が掴んだし、証拠も持ってるんだよ」
修は霧吹が好むネタをほんの少しだけリークした。