メインクーンはじゃがいもですか?
喉が渇いて目覚めると、一番初めに目に映ったもの、それはいつもの天井だ。
ただ、頭が痛い。
「頭いったい。うー……がんがんするー。水……」
頭を抑える葵は時間をかけてゆっくりと起き上がり、血の巡りを良くしないようにのそのそと着替えて水を飲みにリビングに向かった。
まだ朝も早いので、家の中はしんと静まりかえっていて空気も健やかに乾いていた。
音を立てないように庭を愛でながら廊下を歩き、冷たい空気を少しずつ吸うと頭も少しずつはっきりしてくるのが分かる。
リビングには誰もいない。なんの音も聞こえないし誰の話し声も聞こえない。無音が静けさを助長し心の平常心が深く研ぎ澄まされるようだ。
業務用冷蔵庫からお高い万円のミネラルウォーターを取り出すと、その辺にあるこれまたどこかの名前のついているであろうコップに入れて一気に飲んだ。二杯目を入れながら辺りを見回す。
業務用冷蔵庫があるのは、この家には若い衆がたくさんいて、一緒に生活を共にしている為だろう。
キッチンからオシャレに繋がっているリビングには、革張りの真っ黒いソファーが壁一面にずらりと並べられている。各ソファーの間にはサイドテーブルもセットで置かれていた。
壁には末恐ろしい虎やら龍やら鯉やらの画が掲げられ、暖炉の上には危ない刃物がコレクションされていた。
その横には不釣り合いなグランドピアノ。誰が弾くのか分からないが、次郎ではないと葵は次郎の極端に短い小指を思い出して感じた。次に、霧吹を思い浮かべ、ピアノを弾く様子を思い描いてみたが、笑える画しか浮かんでこなかった。ということは、ピアノが似合う人物はただ一人。修だ。
たしかに画になると一人頷き、二杯目の水を飲み干した。
誰もいないリビングはとても静かで周り一面の空気も何もかもが綺麗。
一日中、365日、休むことなく空気清浄機が回りっぱなしになっているため、タバコを吸うみなさまがいてもいなくても、柔らかいフルーツの香りの空気を、邪魔にならない程度に室内に循環させている。
金持ちのすることはよく分からないと庶民派の葵は空気清浄機をじっと見ながら「お水おいしい」とつぶやいた。