メインクーンはじゃがいもですか?

 部屋に戻ってもうひと眠りしようと思った矢先、玄関の方で物音がしたので、誰か起きてきたのかと思って玄関に向かってみることにした。

「おお、お嬢さんお早い朝で」

 不意に声をかけられびっくりした。そこには、組長がジャージにサングラス姿で廊下を歩いていた。そのジャージには、バッタ物で間違いないであろう、ハルマーニャと書かれたブランドのパクリがこれみよがしに刺繍されていた。

「あ、あぁぁ……おはよう、ございまぁす」

「はい、おはよう」

 ぺこりと頭を下げる葵は組長の後ろに次郎がいたのを発見した。次郎は組長のゴルフバッグをゴロゴロと引きずっていた。

「今日は大学は入っていなかったね?」

 組長はサングラス越しに葵を見ているが、真っ黒いサングラスは鏡と化し、そこには葵自身しか映っていない。

「はい、今日は、特に講義は何もないです」

 サングラスに映る自分を見て言った。

 そう、今日は一日フリーだ。

 何もやることがない葵は、ゆかりとどこかに出かけようかとも思っていたが、あいにく彼女は彼氏とデートということで、あっさりと振られてしまった。

「そうか。それじゃあゆっくりしてくださいね。のんびりとするのも必要だよ」

 組長は一言そう言い、ダンディーな渋めの笑みを口元に湛えた。笑った口元に皺がニャッと入り、大人なおじさまのイメージでクラリときた。が、そんな自分の気持ちの変化を、『きっとまだお酒が抜けていないんだなあ』といった風に上書きするあたり、葵もまだまだケツが青い。





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