メインクーンはじゃがいもですか?
「それでは、おやすみなさい」
「ん? あああ、はいはい、おやすみ」
組長がやさしく葵に言うのとほぼほぼ同時に、
「パパー」
車の後ろから小さい子供の声。
ええええ! 組長さん、そんな小さな子供がいるんだ! って、いったいどういうことだろう。霧吹さんだってけっこうな歳だよね。
推定60歳くらいの組長に小学生になるかならないかくらいの子供がいるなんて。やっぱり私の知らない世界の人なんだなあとつくづく思う。
葵はその子供を見て、お目目をパチパチした。愛くるしいその子は無垢な笑顔で両手を広げて組長の元へと走ってきた。
「おおおお、来たか来たか。はいはい、いつも元気でちゅねー。はいはい、おじいちゃんですよー」
組長は猫なで声でその子供をあやし、だっこし、持ち上げ……
え?
きょとんとする葵は今さっき組長の口から出た言葉を頭の中で整理しようとした。
そんな葵を見て次郎は言葉を選ばずにずばっとこう言った。
「組長じゃなくて、若の子供っすよ」
思考が止まった葵は説明を求めるように次郎の顔を見続ける。しかし残念なことに自分の口からは言葉が一言も発することができないでいた。次郎は気まずそうに葵の視線をやや斜めに受け流し、表に出て行った組長の背中を追った。
「あ? これだからガキはめんどくせーんだよったく」
スリッパの踵をぺったんぺったんとお下品に鳴らして態度悪く歩いてくる霧吹は寝起きですこぶる機嫌が悪い。やっと昼過ぎに起きて朝方寝るといった普通の生活に慣れ始めたところにこれだ。
箱の中では規則正しく六時起床、九時消灯。そのリズムをようやく崩したところだった。
「朝一からテンションマックスでくんのは、ガキか高校生くらいだな」
寝起きで寝癖のついた頭をわしゃわしゃとかったるそうにかきながら嫌味の一つも言う。
「お? ここにも高校生でもねーのに、朝っぱらから目覚めてるお子様な大人が約一名いんな。ったくお子様はいいねえ」
霧吹は葵を見つけると、とりあえずに笑んでやった。