メインクーンはじゃがいもですか?

 霧吹にまさかの子供。

 霧吹のこの性格からしたら、子供の一人や二人、いや、三人や四人、い、いや、五人……くらいいてもさして不思議には思わないものの、お子様葵にはそれはそれはときたま流れる地球滅亡説のように深刻な問題でもあった。

 頭の中の霧吹メーターは80からマイナス100へ一気に急下降した。

 自分だけがざわめきたてる町並みを映したモノクロフィルムの中にいるような、喧騒的なその中にぽつんと置き去りにされた気分になりきっていた。

 目の前でハグくむ霧吹とその奥さんと思われる女性。

 次郎がそんな二人を愛おしい笑顔で見守る。

 そこは春のように暖かだがしかし若干一名雪が吹雪いているように、心の中が寒くなっている人がいた。

「じゃ、私たち行って来るけど、あんたも元気でね」

「おー。じゃあな」

 ん? 行ってくるけど元気でね? どういうこと? と、耳をそばだててみる。

 霧吹に手を振って車に戻ろうとした奥さんらしき女性が葵がいることに気付き、あからさまにを二度見した。

「ん? ははー、そっかそっか、この高校生が将権の新しい彼女ってやつ?」

「ちげーちげー」即拒否をした。

「あ、そうなんだ。まあ、そうだよねえ。確かにタイプと違うもんねぇ」

 クスッと笑うその女性は葵に軽く会釈すると、さ、行きましょ行きましょと車へと乗り込んだ。

 なんだか感じが悪いなという気がした葵は霧吹に目を移すが当人は子供の後ろ姿をただぼけっと見ているだけだった。

< 138 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop