メインクーンはじゃがいもですか?
次郎は組長を見送るためにつきっきりになっていて忙しなく動いている。霧吹は見送りもせず、玄関から出ることもなく、車が出るのを見送るとさっさと踵を返した。
「寝る」
そう言うと、ちゃっちゃと自室へ向けてまたもお下品にスリッパをぺったんぺったんと鳴らして歩き始めた。
「霧吹さん」
消え入るような声で呼んだ。
若干年が入っているためか小さい声は耳に届かないい霧吹はそのまま遠ざかる。
「霧吹さん!」
今度は補聴器をつけたおじいちゃんにも聞こえるようにはっきりと呼んでみた。
なんだなんだ何があったんだとばかりに振り返る霧吹に、葵はさっきの人は誰かと問う。
「かみさん」即答だ。
やっぱ、そうなんだぁ。奥さんだったんだあ。なんか、すんごーくショックが大きいなあと、あからさまに凹む。頭から肩からでかい漬け物石がででんと乗っかった思いがした。
「前のな」
「前?」
「そ」
「って、離婚したってことですか?」
「それ以外になんかあんのか」
「なんかあんのかってだって、(なんかとても親しく感じたから離婚なんてしてるふうには思わなかったです)」
ホッとする反面、複雑な心境の葵に霧吹は、「くだらねー想像はすんな、終わったものは終わった」
ぴしゃりと言い切り、あくびをひとつするとケツをぼりぼり掻きながら屁を一発かまし、部屋へ入って行った。
部屋が閉まるのをうすら細い目で見送った葵は、組長ご一行を見送って戻って来た次郎の気配を感じて振り向いた。