メインクーンはじゃがいもですか?
「葵さん、そんな辛気臭い顔しないでくださいよ」
几帳面に靴を直す次郎は葵の顔を見ない。
「ぜんぜん知らなかったんですけど」
「そうでしょうね、言ってませんでしたからね、なんか、すみません」
「前の奥さんって言ってました……霧吹さんがさっき」
「あ、若から聞きました? そうなんですよ、若が22だか23だか、いや、18だったかな? ん、20? まぁ、そんなかんじの時のね、荒れ散らかしてた時分の出来事ですから」
「でも奥さん、だってなんかさっきは親しそうだったし」
「ああ、いつもっすよ、そして誰にでも。それに美紀子さん今再婚してますよ。野兎のあれとですけどね。ようやりますわほんと。魔性ですよ。そんなわけでちょっとばっか若と修さんと美紀子さんの間には問題があるんですけどね、まぁ、それはその、大人の事情ってやつで今のところはまあまあまあ……」
次郎がお茶を濁した。
なんか、なんか、なんか、
「でも葵さん、若とどうこうなろうと思ってるんだとしたら」
だとしたら?
「諦めた方がいいっすよ」
「なんで?」
「って、俺らの稼業知ってます?」
「ヤクザ屋さん」
「あら、バレてました? 困ったことにそうなんですよ」
自分のおでこをポンとおちゃめに叩く。
「だから、一般人好きになって、普通の生活を送ったほうが葵さんのためだと思いますよ。こんな世界、来ない方がいいに決まってるんですから」
と、至極の道理を言う。
その言葉を葵は頭の中で考える。
しばししてまとまった答えを次郎に言おうと、言葉を出す準備が出来、口を開いた時には、
次郎は既にリビングに消えて行くところだった。