メインクーンはじゃがいもですか?
「ほんじゃよ、行くか」
ちゃりんちゃりんと車のカギを振り回し、嵐が去って静かになった家から大学に向けて出て行った。
車内は二人きり。
いつもは無駄に長いリムジンだけど、今日は普通のセダンだ。
いつもくっついている次郎は、最後まで、本当にいいんですか? 俺も行きますって。ほら、運転疲れたら変われるの居たほうがいいじゃないっすか。ねえ。と、なんとなく遠回しに着いて行きたいとアピールしていたが、結局最後までその願いは叶えられなかった。
えらい時間が経過したように感じたが、まだ5分少々だ。
「なんか……緊張しますね」
葵は車内の無言に耐えられなくなり、霧吹に声をかけた。
「しっ」
霧吹は左手で葵の腕を抑えた。
うわ!
右腕を抑えられた葵は石像のように固まった。その中心に居すわる心臓がばっこんばっこんと高波という名の血液を身体中に打ち付けていた。
「よし、そうだ、そこだ! そのまま行け! させ! させ! さしこんでけ!」
霧吹は掴んでいる葵の腕に力を込めた。
何が? させって何? 怖い。てか何言ってんだろう。と、独り言を言う霧吹に動揺する。
「よしよしよしよしよしよしよしそこだ! 行けこら! 逃げろ逃げきれ! つきさせ! よしよしよしよしよし」
般若(はんにゃ)のような顔になる霧吹に、葵は怖くて何も言うことが出来なかった。