メインクーンはじゃがいもですか?
『スナック 赤パンツ』
最悪なネーミングセンスにはある意味脱帽。
『おわりました』
と書かれた札を店のドアに掛けられているのを確認し、葵は胡散臭い顔でそれを触ってみる。
ドアノブに手をかけ、回す。やはりカギが掛かっていた。裏手に回ってみたが、途中に置かれている植木鉢に遮られるかたちとなった。
夜になるまでどこかで時間を潰そうか、一回家に帰るか、もしかしたらもう霧吹は帰って来ているかもしれない。ともやもやと思い悩んでいた矢先、表からカギが開くような音が聞こえ、葵は足音を消しながら急いで表に回った。
「はいよ、まぁそういうわけなら仕方ないわね。美紀子ちゃんにはこっちから言っとく。っとにあんたはいっつもいきなりなんだから」
赤パンツのママの声と『美紀子ちゃん』という名前に足を止めた。その名前は聞いたことがあった。どこかで聞いた名前だがこの時の葵は思い出せなかった。
「んじゃひとつそういうことで頼むわ。わりいな」
霧吹の声だ。ああ、思い出した。美紀子ちゃんて、美紀子さんのことだ。霧吹の前の奥さんだとようやく思い出した葵は表に出て行くことが出来ずに植木の間に挟まったまま大きめのため息をついた。
「でもあれだよ将ちゃん、あの威勢のいいお嬢さんには何かしら言って行きなさいよ。じゃないとあれはあんたのこと探すわよきっと」
「……それも頼むわ」
「あんたねぇ、何から何まで全てあたしまかせかい? っとに昔から変わらないねぇ。ふふふ、まぁいいわ、そこがいいとこなんだけどさ。いい、帰ってきたらまずはここに一番最初に顔を出すこと。忘れんじゃないわよ」
「分かってるよ」
相変わらずぶっきらぼうな霧吹の声に、つっけんどんなママの声は心なしか寂しく聞こえた。