メインクーンはじゃがいもですか?

 そこへタイミングよく次郎が車をつけた。

「若、お迎えに上がりました」

「おお」

 いつもよりも低い声で次郎と一言二言交わすと目の前につけられた車に乗り込み、次郎がママに頭を下げ、車は滑るように進んで行った。

 どういうことなんだろうか。どこへ行くんだろう。ぜんぜん見ないと思っていたのに。

 美紀子さんに言うことって何? 何、何、と疑問符を打つことは、まぁ、つきない。

 息を殺して気配を消す葵、ママはまだ店の中に入って行っていないようだ。

 植木鉢の横に立ってじーっと潜む。

「ほれ、野良猫! もういいよ、出てきな」

 赤パンツのママは頭にカーラーを巻いたまま、どすっぴんだ。腰に手を当てながら裏口に隠れている葵に声をかけた。

 が、葵は自分のことじゃないと思っていて、いまだじーーーーーっと潜み続けている。

「あー、ほんとあれだわ、めんどいのね。ほら、葵ちゃん、出てきなって」

 ママは顔を覗かせ、葵に一笑した。

「!!!え? 気付いてたんですか?」

「気付いてないのはあんただけ。あたしも将ちゃんもたぶん次郎だって気付いてたと思うよ」

「なぜ」

「だって」

 丸見えだった。

 確かに裏口なんだけど、植木の間から葵の姿は丸々っと見えていた。

「次郎だってさっきあんたに頭下げてたじゃないか」

「あれはママさんにじゃ?」

「なわけないだろ。ここは昔からあいつらの家みたいなもんで、それこそ次郎なんておしめしてる頃からここにいるんだから」

「すごい恥ずかしい」

「はは。今更だろ」

 隠れていた植木鉢の横からゆっくり出て、おいでと手招きして店の中に入るママの後を母猫を追う子猫のように着いて行った。




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