メインクーンはじゃがいもですか?

「体育会系のほらなんだっけあいつだよほら、虫みたいなー?」

「虫って何ですか」

「ああ! そうだ、思い出した。コオロギだよコオロギ!」

 ぽんと手を打つ。

「ひえーーーーー、コオロギ君ですか?」

 びっくりして力が抜け、ソファーに背中をどっさりと預けた。

「おっとっと、こりゃいけない、名前は言うなって言われてたんだけど、こりゃまいった。言っちゃったよ、やだねーこれだから年取ると。ほら、これ内緒ね。それでそのー、コオロギ? 今頃はまぐろの一本釣りに精を出してるころだと思うよ」

「マグロ???」

「そう。青森沖にマグロ漁船でどんぶらこっこよ」

 葵が何も言えないのをいいことにたたみかけた。

「だから、霧吹はあんたのお守りはお役ご免ってわけ。あんたをはねたのは1回目は運転担当の若い衆、2回目は次郎」

「えー! 次郎さん、私のことはねたんですか?」

 ソファーにもたれていた背を跳ね上げ、テーブルに腕をつき、ママに寄る。ママは眉根を寄せ、ソファーに背を深く預け葵から距離を置いた。

「そうだよ。だからもうあんたが知りたいことはこれで全部知ったってわけだ。で、はい、さよならと」

「まだあります」

 訝しげに顔をひねるママはタバコを揉み消し、三本目のタバコに手を伸ばす。

「ママさん、チェーンスモーカーなんですね」

 葵はひっきりなしに吸うタバコの数と、吸い方が尋常じゃないママの震える手元を見て言った。

「一日4箱までって決めてる。で?」

 気にもせずに火を付けた。
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