メインクーンはじゃがいもですか?
「だからさ、葵ちゃん」
葵の手に自分の冷たい手を被せた。
「将ちゃんのことは諦めてさ、ちゃんとしたかたぎの人を好きになりなよ」
それが一番いいことよ。と念を押した。
葵はその手を弾くようにほどいた。
「霧吹さんは美紀子さんのことを今でも好きなんでしょうか?」
「いや、あれは薄情だからねぇ。将太が心配なだけだよ。あんなんでも一応人の親だからね、子供は可愛いって思うんじゃないかい」
「じゃぁ、諦める必要なんて無いですよね」
「ほほー、これまた威勢のいいことを。あのさ、葵ちゃんさ、あれのどこがいいの?」
「分かりません」
「はー、それが一番痛いんだよね。あれは見た目華やかだし、なんでもかんでもうまいから。バカだけどさ。でもその通りの遊び人。自分のことしか考えてないから一緒になっても幸せにはなれないと思うよ」
「でも、心の奥にある本当の部分は、人を思う優しい人です!」
「……へぇ、それ、あんたに分かるの? ふーん」
面白そうに笑うと、タバコに手を伸ばした。
確かにママの言うことも一理ある。
でも、もう……
走り出したら止まらない、土曜の夜の天使だ。唸る直感は闇夜を裂き、朝まで全開でアクセルオンだ。
そんなもんだ。
一度走った心はどうにもこうにも止めることは出来ない。
「霧吹さんはどこに行ったんですか?」
「それはいくらあたしでも言えないよ」
吸い切ったタバコの箱をくしゃりと潰し、新しいタバコを取りに席を立つ。
「もう、帰りな」
これ以上は何も教えてくれないんだ。そう感じた葵はお礼だけ言って、店の外に出た。
残暑厳しい折だ。
蝉の声がうっとうしく耳にこびりついた。