メインクーンはじゃがいもですか?
犬山の叔父さんに電話をしたが、直留守になった。
そこで、あまり乗り気では無かったが、野兎組に電話を……
電話番号は知らないことに気付き、葵は気がつけば電車に乗って、場末の町『蒲田』へと向かっていた。
しがないビルの中にその事務所があったはずだ。
その道程は覚えていないけど、その辺に看板かなんかが出ているだろうと気楽に考えて行った葵は目的地を探せないことになる。
「看板、出て無いんだぁ。これじゃどこか分からないよお」
はぁぁぁぁっと溜息を地面に送る。
そりゃそうだ。どこの世界に、
【ほにゃららヤクザの事務所、この先直進左へ曲がってすぐ】
といったような案内板が出ているか。そんなものは聞いたことが無い。
つたない記憶をたどって左右にふらふらと彷徨い続けること数時間、見覚えのある白いリムジンが目の前を流れるように通り過ぎた。
「あ! あれって」
確か大学の前で見たことがある。修さんの車だ。こんなところにこんだけ目立つ車はきっと野兎組のものに違いない。
そう直感した葵は地面を蹴っていた。見失わないように無我夢中で走った。またはねられないように気を付けながら走った。夢中で走り、二つ目の角を曲がったところで白いリムジンに追いついた。
やっぱりそうだった。間違いなかった。
見慣れたビルの下で止まった白いリムジン。間違いなく野兔組のものだった。