メインクーンはじゃがいもですか?
見慣れた運転手が後部座席のドアを開け、車の中から降りてきたのは、白いハイヒールをはいた細身の女の人。
葵は走るのをやめた。すぐそこにある電柱に隠れて様子を伺った。
優雅に降り立ち、ハイヒールを鳴らしたその人は栗色の髪を上品に巻いていて、デカい黒いサングラスをかけていた。唇は真っ赤なリップで縁取られていて、小顔、どこかの女優なんかよりもずっと綺麗かもしれないと素直に感じた。
葵がいるのを知っていたかのように振り返り、にこりと微笑む口元は、意地悪だった。
美紀子さんは『こっちにきなさいよ』と手招きした。
葵は、それが自分に向けられたものだと分かると、落ちる肩を無理矢理張って、言われる通りに着いて行った。
「で、何か用事かしら若いお嬢ちゃん? 走って疲れたでしょう、どうぞ」
【おいしいミルク】を出されるあたり、完全にお子様扱いをされている。
「あ、クッキーかなんかあったほうがいいかしら? 持ってきてちょうだい」
子供扱いは続行しているようだ。
「いえ、いいですから」
謙虚に断ったものの、組の若い衆がお皿にこんもり乗っけて持って来たのは、
『ミスター伊藤野のバタークッキー』だ。
葵はつばを飲み込み、がまんして手を付けずに、美紀子の言葉を待った。
「どーうぞ」
「いえ、けっこうですから」
ここで手をつければ完全に子供扱いを受け入れたことになる。それだけは許せなかった。
「遠慮なさらずに」
「いえ……」