メインクーンはじゃがいもですか?
「あんた、あたしの出したもんが食えんとでも言うんかいな」
ドスの効いた声に人を殺せそうな眼光は恐怖でしかなかった。
「いえっ、今から頂こうかと!」
素早い動作でクッキーをひっつかみ口に入れバリバリ噛む。ミルクをひっつかみゴクゴク飲む。
「お、おいしいですー」
「あは。よかった。で、なんか用?」
何も考えられなくなったところで言わせようとするあたり、本当に意地悪なんだ。
「あの、霧吹さんのことなんですけど」
「あぁ。ははは、だと思ったあ。ふふ。はっきり言おうか。あんたじゃ無理だよ。まぁ、そうね、隠しても仕方ないから言ってあげるけど、将権あと1年半くらいはこっち帰ってこないんじゃないかなぁ」
「1年半? 帰って来ない?」
「聞いてないの? 可哀想にねえ。何も聞かされてないなんて、相手にもされてないってことなのかなあ? どう思う? 私このあと予定入ってるからこっちからあんたが聞きたそうなことざっと言うわね。それでいい?」
あまりにもショックをうけ、こくこく頷くことしかできない葵はすでに聞きたかったことは頭からすっぽんと抜けてしまっていた。
「うちの旦那が今コロンビアにいるんだけどね、ちょーっと問題あってさぁ、あ、ちょっとだけよ。で、将権に助けてーって連絡入れたらしいの。ははは、でさ、ほら、ああ見えてかなり面倒見いいからね、しかも自分の弟のように思ってた奴だから、いても立ってもいられなかったんでしょうねぇ」
しゅぽっと細い葉巻に火をつけた。
「でも嫌いなんじゃ」
「ううん違う違う、修が、あ、修って私の旦那なんだけど、会ったことあるよね?」
意味深な笑いを向けた。
「修がさ、昔のことをいつまでも根に持ってうだうだやってんのを、将権が軽くいなしてたってわけ。きゃんきゃん吠える子犬相手に本気になっても仕方ないでしょ? ま、私も将権にはいろいろ振り回されたし、迷惑被ってきたんだから、少しくらい痛い目みせようと思ったんだけどね」
「なんでそんな人と再婚したんですか?」
と直球を投げた葵に、
「それは大人の事情ってやつよ。あんたもあと10年もしたりゃ分かるようになる」
と、煙に巻かれた。