メインクーンはじゃがいもですか?
ちゃぶ台の上に置いた携帯は、着信を知らせるランプが点滅していた。葵は手に取り確認するとその表示は『次郎』からのみだった。
「どうせまた生存確認かなんかでしょ」
ぽいっと携帯をちゃぶ台に投げ、14インチのモニターのような小さいテレビをつけた。
「って見えないし! なにこの小さいの。しかもテレビの下にビデオテープの入り口があるし。今どきこんなの使ってるのいないよ。ビデオだって売ってるのかなあ。レアだよこれ」
もんくを言いながらもやることも無いのでこのモニターのようなテレビを目を細めて見るが、これといってめぼしい番組は無い。
「でかけようかな。目も痛いし」
霧吹からの連絡は、夏に雪が降る確率で来ない。
てか、昨日コロンビアに向けて一言の挨拶も無しに出かけたわけだから、まだ着くはずもない。きっと今頃はどこぞの国でトランジットでうだうだしているに違いない。
と、また勝手に思い込む。
けっこうしぶとく恨むふしがある葵は、考えるのをやめようと頭を振って忘れることに専念してみることにした。
それでもふとした瞬間に頭に入ってくるのは霧吹の顔だ。次に、次郎、三郎、霧吹邸で組長諸々みんなで笑いながら話したことや、談笑しながら食事をしたことだ。無駄に長いテーブルの端と端で会話をする霧吹と組長のかけあいを面白おかしく思い出していた。
次郎がせわしなく動きまわっていたこと、三郎が頻繁にガーゼのハンカチでツルツルの額をポンポンしていたこと、組長が80年代に流行ったであろうグラサンを室内でもかけて真っ白い歯を見せて笑っていたこと。全てが懐かしかった。