メインクーンはじゃがいもですか?
「葵さんの持ってたスーパーの袋に入ってたものをですね、うちの冷蔵庫に入れたんですが」
「あ? 葵さんの荷物だろうが? 何を勝手にやってんだよ」
次郎は四郎の頭を軽く叩いた。
三郎は霧吹を追って部屋を出て行ったが、次郎は四郎に呼び止められて、ここにいるわけだ。
「気になりましてね」「何が」
「さっき葵さん、メインクーンっていってましたよね?」
「? ああ、メインがなんとかとか、メンクイがどうのとかって言ってたな。横文字はよく分からねぇ」
これを見て下さいと、袋を差し出す四郎の顔はクエスチョンマークだらけだ。それを手に取った次郎もまた、クエスチョンマークだらけになる。
「これがまさかのメインクーンっすかね?」
「一体なんだこれは? これと若と一体なんの関係があるんだ? 若の自慢の虎がメインクーンになるのか?」
「たぶん葵さんが言いたかったことって、若がじいさんになって重力に負けて皮膚が垂れ下がってきたときに、背中の虎もヨボヨボに垂れ下がるって言いたかったんすよね。で、その虎が猫みたいな可愛いもんになっても一緒にいるって。で、その猫の種類で咄嗟に出てきたのがメインクーンじゃなかったんすかね。てか、本当に若のこと好きなんすかね? これ、新手の冗談っすかね」
「若のことをこれ扱いか?」
大の大人が二人、じゃがいもの袋を眺めて疑問にぶち当たる。葵が買い出しに行った時に買ったじゃがいも。よく見りゃその袋には、『メイクイーン』と書いてあるが、カタカナ語にめっぽう弱い二人にはそれは『メインクーン』にしか見えなかった。
「次郎さん、もしかして若は」
「葵さんにとってはじゃがいもってことか? じゃがいも並みに簡単だとでも言いたいのか?」
怖い物知らずとはこういうことか。と青くなる二人の勘違いな男。二人が『メインクーン』と『メイクイーン』の違いを知ることになるのは三郎が帰ってきてからのことになった。