メインクーンはじゃがいもですか?
「てめぇ! 次郎このやろうが! 何してんだよ!」
シートベルトをカチッと外しながら言う姿に迫力は半減する。
長い車の中を前屈みに前方へ移動し、運転席と後部座席とをを隔てている内ウィンドウを拳でぶん殴る。
ハンドルを10時10分で構えながらゆっくりと振り返る次郎は顔面蒼白だ。
震える手で内ウィンドウを開けた次郎は泣きそうな声で、『若やっちゃいました』嘘偽りなく正直に告白した。その唇はチワワのように小刻みに震えていた。
「何がだ! 何をやった! どうした!」
襟首をひっつかみ、首をがくがく振る。
「また、その、あの」
「また? 股? 股か? 股だな、これはあれだ、酒だ」
「いや、違います。そんなんじゃなくて、「また」、人を」
なんてこったとばかりに前を確認する霧吹の目に入り込んできたものは、
車の前に倒れている人物の腕だ。腕しか見えないってことは、体はもしや車の下か? 周り近所を確認したが、今日は有り難いことに誰もいなかった。
霧吹は頭の回転を光速にシフトチェンジした。
この場合、どうしたら一番都合がいいかを考えた。
これから三千万の話をしに行かなければならないが、跳ね飛ばした人間を放置し、とっつかまったら、今度はいつ出られるか分かったもんじゃねぇ。
ここはひとつまたあなたのさんに頼むしかないか。
そんなよこしまなことを考えながら車の外に出て行った。