メインクーンはじゃがいもですか?
「また、こいつかよ」そんな偶然があんのか? 霧吹は心で突っ込む。
そう、次郎が跳ね飛ばしたのは、またも葵だ。
葵の上半身を抱えるように抱く霧吹は、ほっぺに両手を当てて口をアホのように開く次郎を見上げてこう言った。
「拉致るぞ」
こくこく頷く次郎は内ポケから携帯を出すと、どこかへと電話をかけながら、霧吹を中に入れるために、後部座席のドアを開けた。
もちろんこの状態で電話をかける先と言ったら一つしかない。
あなた野病院だ。
霧吹は自分の股間部分が霧島のおかげでひんやりしているのを、頭の片隅で感じながら、葵を抱えそそくさと後部座席へ滑り込んだ。
三千万の話を頭の片隅に置き、でもこの話がまだチャラになったわけじゃないことを計算すると、自然と笑みがこぼれてくる。
バタンとドアを閉めると、黒いリムジンはUターンし、行くべき所へとかっ飛ばして行った。
犬山に連絡をした霧吹は、おかしなことを聞いた。
犬山曰く、今日ここに来るべき女がまだ来ない。そしてそれとはどうにもこうにも連絡がつかないということだ。
犬山はもう少しここで待ってみて来なかったら、俺もそちらへ向かうと言い残し、電話を切った。
もしやこの話はヤブか?
と、もやもやした気持ちを心にぐっと押し込めて一路、あなた野病院へ歩を進めた。