メインクーンはじゃがいもですか?

 そこにタイガーパームは無かった。

 葵は布団の上でなんとか目を覚まし、首を右に向け、耳に届く音を確認すると、

 カッポーン、カッポーン……

 と等間隔にししおどしの水の音が綺麗に響いていた。しばらくその音色に浸り、それをじっと眺めていたが、視線を天井に向けた。

 天井は無駄に高く、そこには龍の絵が一面に描かれていて、普通じゃないということを痛感させられた。

 そして広い畳の部屋には葵一人だけだ。さながら日本庭園のたたずまいな庭を横に見られるこの部屋は、葵には似つかわしくなかった。

 急速に居心地が悪くなり、ひとまず上半身を起こす。

「腰、いったぁ、なに」

 腰に手をやりさすると、服の上からでも腫れているのが分かる。

「あ、起きましたか」

 襖が音も無く、まるでプリウスが発進するように静かに横にスライドした。

「今、若が参りますんで、お待ちを」

 声が出なかった。

 襖から顔を覗かせたのは金髪の短髪、顔に傷のある強面なお顔だった。既に何人かをほにゃららしましと言うようなお顔に葵はとっても気分がよろしくなくなった。

 若? って誰?
 
 ここはもしかして戦国時代かなんかで、

 私はあの車にぶつかった時になんかの拍子で

 こっちの世界に迷い込んじゃった、とか?

 コメディーのはずなのに気付いたら戦国・歴史、とか?

 そんなことが実際に起こってなるものか、ここから逃げ出す? いや、そもそも私はなんでこんなところにいるわけだ?

 確か車に……

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