メインクーンはじゃがいもですか?
「助けた?」
「忘れたのか? はねられただろうが車によ。それを俺が助けたんだよ。あのままだったら君は確実にあの世の住人になっていただろう」
大嘘をこいた。
自分が運転していなかったとは言え、自分の車が葵をはねたのは周知の事実なのに、ここぞとばかりに自分で自分を擁護した。
もちろん裏はある。
「そう……だったんですか。あの、ありがとうございます。で、犯人は見つかったんでしょうか? 警察には」
「あ? おまわりにんなこと言えねーだろうがよ。そんなことしてみろ、俺はまたブタ……」
「若っ! いや、葵さん、ブダペストはいいやねーって話ですわ」
ぽんと手を打ち、
「はいはい、そんなことより、無事なことが何よりだろう。なあ、葵。あとは大した問題じゃあないよ。だろ?」
犬山が割って入った。
警察沙汰にされたんじゃ、犬山が葵にひた隠しているあれやこれや、それやどれやがオープンセサミしてしまうではないか。
「でもおじさん、私」
「大丈夫。おじちゃんがちゃーんとみつけてやるから、葵は安心しなさい。いいね」
葵の肩を優しく抱き、さすってやり、葵にことばを発させずに居間に移動する犬山と葵。
それをうすら細い目で見る霧吹は犬山とアイコンタクトを取った。
『遠巻きに守るとは聞いたがこいつのボディーガードとは聞いてねーし、ヤクザ家業も伏せろってか?』
『そうだ』
『そうかよ、そーなると5千万は確実になってくるってもんですわな』
『……ちっ。大きく出やがってこの野郎』
小首を縦に振る犬山は、渋い顔をながら、しぶしぶ了承した。しかしながらこわっぱの頃から霧吹を見てきている犬山はダメな大人に成長した霧吹を頼もしくも感じていた。