メインクーンはじゃがいもですか?
サウナでのことを思い出し、一人赤面する葵など知る由も無い霧吹は、次郎を引き連れて夜の街へ繰り出して行くところだった。
『スナック 赤パンツ』は今日も静かに閑古鳥が鳴いていた。
霧吹はここぞとばかりに金を湯水のごとき使う。
「霧吹さん、なんか近頃ほんわりしてません?」
さすがは水商売を生業とする女たちだ。客のことはお見通し。と言っても霧吹はこの辺をしきるヤクザだから、気にする必要もないわけだが。
「あー、もしかして、好きな人でも出来たんですかぁ?」
「おい。初めての女はやっぱ面倒くさいか?」
「はぁ? 初めてって? そんなのって男同士がする話でしょう? 女の私たちに聞いてどうするんですか?」
「だからよ、女的にはだよ、「初」ってのはどんな感じなんだよ」
「あぁ、そういうこと? それは人に寄りけりだと思いますよ」
「あ?」
「だからぁ、まともな女? なんてゆうかなぁ、未経験者ってきっとそれなりに夢もあるし、なんかほら、恋愛小説のような憧れもありますでしょうから。初めてが霧吹さんだったらまずどん引きでしょうね。例の性癖を最初から受け入れる子なんていませんよきっと。だから、そういう相手にはあんまりつっこんだことしないほうが身のためだと思いますよ」
「そんなもんなのか」
物心ついた頃には既にどうしようもなかった霧吹に、そんな純粋な話が分かる訳もない。
どうにもこうにも霧吹はまともな恋愛を知らず、はたまた葵はまともな恋愛経験が無い。
この二人がくっつくことがあるのかどうか、その確率は高いのか低いのか、計算する次郎の顔はいつになく渋い顔になっていた。
霧吹にはまだ葵に言っていない秘密があるが、今のところ本人は言う気はさらさらないようだ。