メインクーンはじゃがいもですか?
部屋に入った霧吹はようやっとサングラスを外し、膝に手を置き、頭を下げた。
その先には紫色のスーツを着た時代錯誤の親父が一人、ふわっふわの社長椅子に座って体を左右に揺らしていた。
「ご苦労なこってな」
「野兎のおやっさん、その節はどうも」
「話はある程度聞いてるが、俺はもうこの年だ。年金をもらって生活してもおかしくない。しかしながらそれは叶わん。まあ、それはそれとてそろそろ修が来るから二人で話しんしゃいよ」
「え? おやっさんとじゃないんで」
「もうそろそろお前達の時代が来るだろうてね、そのときの為にもわだかまりは取っておきんしゃいって。いつまでも喧嘩していたんじゃ疲れるだろうて」
野兎は冗談めいた口調でぬらりぬらりと話しをすると、おもむろに立ち上がり、いまだ少しだけ頭を下げている霧吹の肩を叩き、
「なかなか可愛らしいお嬢さんを連れてきたもんだ」
これまでに何人もの人を騙くらかしてきましたというのを物語る口元、その舌はきっと二枚舌だろう。
「この業界の子じゃないね?」
「預かってるだけでして、面倒が終わればすぐさま無関係になります」
そうかそうかと面白く笑い、霧吹の心の内をすでに読んでいる野兎は目を細め、少し待っててくれと言い残し部屋を後にした。