愛色と哀色の夜
重苦しい沈黙が、長い間続きました。
「……あの…」
ボクの真正面にいるであろうその人は、目の前の段ボール(ボク)にそっと呼び掛けています。
「あの、大丈夫ですか…? 生きていらっしゃいますか…?」
鈴の鳴るような声で、その人はボクに呼び掛けます。
「あの…」
「…生きてるよ」
ボクは相手に聞こえるぐらいの声で答えると、段ボールからそっと顔を見せました。
「…生きてるよ、大丈夫」
心配そうにボクを覗き込むその人に、ボクはもう一度繰返します。
「…よかった」
その人は言うとにこっと花が綻ぶように笑いました。
…その笑顔はとても綺麗で、ボクは思わず見惚れてしまいました。
「……あの、なにか…?」
食い入るように見詰めていたからでしょうか、その人は怪訝な顔でボクを見ています。
「あっ…えっと…」
決まりが悪くなったボクは、取り敢えず手元の段ボールで顔を隠しました。
「ふふ、不思議な方。……私は麗菓(れいか)と申します、貴方は?」
麗菓、と名乗ったその人は花のような笑顔のままボクに問います。