愛色と哀色の夜
辺りは暗く、道端の街灯が点々と灯っている道をただ進みます。
さくさくと、地面を踏む音だけが反響し吐く息が白くなるのをただ見詰めていました。
「ねぇ、あとどのぐらいで着くの?」
先を行く闇よりも深い黒のコートを着た人に尋ねると相手は此方を振り返り軽く笑って
「あとちょっとだよ」
ボクは隣を歩く麗菓さんの手を強く繋ぎ、ルイさんと離れないように早足で進みます。
「…疲れたかい?」
ボク達が追い付くのを待ってから、ルイさんは問います。麗菓さんは少しだけ頷くとボクを見ました。
「麗奈は、疲れてない…?」
「麗菓さんは疲れてる?」
こくん、頷くと申し訳なさそうにボクをみる麗菓さん。するとルイさんが立ち止まり
「じゃあ少し休憩しようか?」
近くの野原に横たわると溶けきることなく残った露が、体を濡らしました。
「ひゃ…っ」
あまりの冷たさに悲鳴を上げると、隣にいた麗菓さんが含み笑いをしています。
「麗奈ったら…、いきなり寝たら冷たいじゃない」
羽織っていたコートを敷き、その上に横たわる麗菓さんを見てボクはほぅ、と息を漏らしました。
「麗奈ちゃん、俺のコートに横になっていいよ?」
闇色のコートを脱ぎ地面に敷くと、ルイさんは先に横たわってしまいました。慌てて隣に寝ると、ボクよりずっと大きいルイさんの体にすっぽり収まってしまいます。
「…ルイさん、大きいね」
何処か懐かしさを覚え、ルイさんの体に抱き着きます。そんなボクをルイさんは優しく撫でてくれました。
「まぁ、麗奈ちゃんの何倍も生きてるからね。……そうだ、麗奈ちゃんにだけ教えて上げる」
そう言って、少し顔を上向けたルイさんは首筋のある部分を示しました。
「…見えるかな、このほくろ」
示された部分をよく見ると、小さなほくろが目に付きました。
「これね、星形なんだ」
ふぅん、特に興味がなかったので生返事をすると、おもむろにルイさんが起き上がります。目だけで見上げると何やら物憂げな表情をした彼と目が合いました。
「…やっぱり、わからないんだね」
此方を見詰めて、半ば諦めたように呟くとルイさんは立ち上がります。
「行こうか。時間もない」
寝転がって草の観察をしていた麗菓さんが驚いた顔をしていました。ボクはコートを畳むとルイさんに手渡します。
「ん、ありがとう麗奈ちゃん」
コートを受け取ったルイさんはそのまま着る訳でもなく、暫くコートを眺めていました。