愛色と哀色の夜
「いらっしゃい」
ルイさんに連れて来られたところは、小さくてかわいいお店でした。
「さっきの件なんだけど…」
彼は迎えてくれたお姉さんの耳元で何か言うと
「…ん、大体のことはわかった。いいわよ、共犯になってア・ゲ・ル♪」
軽く肩を叩くと、困った様子のルイさんに背を向け、そのお姉さんはボク達に話しました。
「初めまして、あたしはこのお店の店主の杏(あん)よ。この人とは昔………からの付き合いで、腐れ縁ってとこかしら?…痛いわね、わかってるわよ。あなた達に似合う、かわいい服を見付けるから、楽しみにしててね♪」
ルイさんに叩かれた部分をさすり、悪戯っぽいウィンクをすると、杏さんは何処かへ行ってしまいます。
「…だ、大丈夫なのかしら…」
麗菓さんは此方を見詰めると小さく俯きます。ボクは麗菓さんの肩に手を置くと耳元で呟きました。
「…大丈夫、だと思う。なんとなくだけど、あの人はいい人な感じがするんだ」
そう、なんとなくだけど、さっきからずっとそんな感じがする。麗菓さんは訝しい様子で杏さんが消えた方向を見詰めると、ルイさんに問いました。
「見たところどれも高級そうな服ですけど、……わたし達、お金を持ってないんです…」
さっきお風呂屋さんを出た時、余ったお金(お釣りというそうです)はルイさんに返しました。
するとルイさんは口元だけ笑って
「大丈夫、俺が奢るよ」
え、と聞き返そうとした途端、何か大きな音がして杏さんが戻って来ました。何やら重そうな箱を持って、よろめきながら此方に近付いてきます。
「…っと。……あのさぁ、手伝っても罪にはならないのよ?」
にっこりと微笑んで言うと、ルイさんを軽く小突く杏さん。そのままボクらを見て、ひとり頷くと、再びルイさんを見ました。
「このかわいい子達に合う服といったら、今出してきたのしかないのよねー…。まぁ、そっちのウルフヘアの子だけなら男ものでもどうにかなるんだけど…」
「だめだよ。…ちゃんと女の子に見える格好じゃないと」
だから悩んでるんじゃない、杏さんは頬に手を当てるとボクを見て
「…それに、あんただって女の子な服がいいわよね?」
折角女の子に生まれたんだから、そう言ってボクを撫でる杏さんは、何処か育ててくれたお婆さんに似ていて、気付けば抱き締められていました。
「任せて、かわいい服を見繕ってアゲル♪」
杏さんはボクを離すと、麗菓さんのところへ向かいました。麗菓さんは怯えた様子で此方を見ると、細く息を飲みます。
「…あ…あの…」
「…なるほどね、あんたは風宮財閥のご令嬢か」
怯える麗菓さんをよそに、杏さんは箱の中を漁ります。今にも泣きそうに体を震わせる麗菓さんを見て、なんだかとても抱き締めたくなりました。