愛色と哀色の夜
「…よ………わね」
「……って…、だろう…?」
ぼそぼそと、囁くような声で目が醒めました。
辺りを見回すと、自分以外に何か動くものが目に付きます。試しに突いてみると、その物体はぴくっと動きました。
「…だから、どうするの?この子達をあんたと同じ状況にして記憶を消すとか、失敗したらあんたも、今度こそ消滅するのよ?」
「嗚呼わかってるさ。俺もみんなも消えるなんて最初から承知の上なんだよ」
「いいえわかってないわ」
囁くような声はやがて怒号へと変わり、その声の主達は、今にも殴りかかりそうな雰囲気で互いを睨んでいます。
「まさかあの時はあんたがこんなことを考えてたなんて知らなかったから『共犯になる』なんて言ったけど、まさか本当に犯罪をするなんて……」
(犯罪…?)
その響きにボクは軽く背筋が震えました。何故でしょう、その言葉はとても重く深く、心の奥深くに刺さり離れません。
暫く固まっていると、諦めたように片方の人が溜め息を吐き投げやりに此方を見ました。
「……起きてたのね。」
言われて漸く、その人が杏さんだと言うことが分かりました。ボクは少し頷くと辺りを見回します。
「…あんたの横、隣に寝てるのはか、………麗菓だから、踏まないようにね」
そこ、と示された場処を見ると先程突いた物体がもぞもぞと動きました。ボクはそれが麗菓さんだと分かると、慌てて脇にどきます。
「…で、どうしてあんたは突然黙るのよ」
ボクを見詰めたまま言うと、溜め息交じりにルイさんを見る杏さん。ルイさんは何を言うでもなくただボク達を見詰めていました。
「ねぇ、なんか言ったらどうなの?」
苛立ちを隠そうともしない、荒い声で言うと杏さんは小さく舌打ちをしました。…その態度はさっきまでボクと麗菓さんに接してくれた人とは同じだと思えないぐらいに違っていて、訳もなく体が震えます。
「…いや、俺は別に喋ってもいいけど、今はまだその時期じゃ…」
「じゃあいつがその時期なのよ!!」
大声で怒鳴り、きつくルイさんを睨む杏さん。ボクの方は顔を見ることが出来ませんが、その瞳には怒りが映っているでしょう。
「あ、あの…」
上手く状況が飲み込めずに声を発すると、口元に手を当てられ面倒くさそうに説明されました。
「ちょっとこの馬鹿の手違いがあっただけよ。大したことじゃないわ。……苛々してごめんなさいね」
「でも…」
「なんでもないったら、それよりも早く麗菓ちゃんを起こした方がいいんじゃない?」
何かを誤魔化すような物言いに、少し疑問を抱きました。
ボク達が話している間、ルイさんはただボクを見詰めていました。